八戸市が現在、市街地に出没するツキノワグマへの警戒を呼びかけている。
クマの出没状況を取りまとめる同市農業経営振興センターによると、市内のクマの目撃情報は2020年の56件から増加傾向にある。今年は11月26日現在で107件。人的被害や農作物への被害は報告されていないが、昨年同月の41件を大幅に上回る。海沿いの鮫町・白銀町地区、内陸部の田面木地区、山沿いの南郷地区など、中心街以外の広範囲で目撃されているという。
同センターによると、生息域を拡大するシカやイノシシとの餌の競合や、主食のナラの実の不足が原因の一つだという。
職員の高山紀行さんは「クマ対策にはさまざまな議論があり、現時点で正解が分からない。クマに接触しないような対策をお願いしたい」と話す。市では、青森県のマニュアルに基づき、畑に野菜を廃棄しないこと、餌になり得るごみを適切に処分すること、クマの隠れ場所になるような雑草地帯の草刈りをこまめに行うこと、クマが通った場所に近づかないことなどを呼びかける。
「これほど木の実や山の恵みがない状況は見たことがない。この環境下で縄張り争いに敗れたクマが、山を下りて来ていることも目撃が増えている一因では」と話すのは、青森県猟友会八戸支部事務局長の吉田功一郎さん。市では八戸警察署をはじめ関係機関とも情報を共有。市が委託した有害鳥獣被害対策実施隊と猟友会が連携し、緊急の捕獲作業や、高さ1メートル、奥行き2メートルほどの箱わなの設置などの対応に当たる。
やむを得ず捕殺したクマは処分するほかない。吉田さんによると、貫通力の高いライフルを使っても一発で仕留めるには熟練の技が必要で、周囲の安全に十分配慮する必要もある。銃弾がクマに当たらずに向こう側に飛んだりする危険もあるため、クマの向こう側に土手や斜面がなければ発砲できないという。
吉田さんは「経験のある人と実地で経験を積まないと技術や知識は身につかない。人の安全を守ることは最優先だが、山を追われ、餌を求めて人里に入ったクマを捕殺することには胸が痛む。クマを取り巻く現状をより多くの人に知ってもらい、自分たちにできることを考えてもらえれば」と苦慮する。