
南部町斗賀の国道104号沿いに自家焙煎(ばいせん)のコーヒー豆と手作り菓子を販売する自動販売機がある。設置したのは、2022年からこの場所で「お菓子と自家焙煎コーヒー ソカロ」を経営する佐野友美さん。テイクアウトでコーヒー豆や菓子を提供してきたが、一人で切り盛りするため店を開けることも多く、2024年、店先にコーヒー豆や菓子を24時間販売する自販機を設置した。「せっかく来てくれた人に、何か持ち帰ってもらえたら」と考えたという。
佐野さんが大切にするのは、店をきっかけに生まれる人と人とのつながり。店名の「ソカロ」はメキシコの中央広場を意味する言葉。「人が行き交い、とどまる場所にしたい」という思いを込めた。
「コーヒーとお菓子を組み合わせると幸せが3倍になる」と話す佐野さんに、店に込める思いを聞いた。
パティシエールや製菓コンサルタント、コーヒー焙煎士、栄養士の資格を持つ佐野さんは、異色の経歴を持つ。大学卒業後、出身地の田子町の病院で1年間、栄養士として勤務した後、青年海外協力隊の家政・生活改善担当としてグアテマラに2年派遣された。現地でスペイン語を学び、女性の衣食住を改善する活動に取り組んだ。帰国後は大阪府内の製菓専門学校を経て「カフェ・バッハ」(東京都台東区)に就職。12年勤務し、パティシエールとしての腕を身につける傍ら、経営も学んだ。カフェ・バッハではグアテマラ、パリ、エルサルバトルなどの海外出張も経験した。
2017(平成29)年、地元・青森県に戻ることを決意。「時間に追われる忙しい日々の中、心が豊かになっていないように感じた」という。

自身の城ともいえる「ソカロ」を起業したのは2019(平成31)年。地元・田子町内の小集落にあった小屋を改装した。焙煎したコーヒーや菓子を提供する中で、地元の自然豊かな環境、野菜・果物などの素材の良さに気付いたという。地元こそがパティシエールとしての経験を十分に生かせる場所と考えた。オンラインショップでの販売、イベント出店、月1回のコーヒー教室なども行うようになり、訪れる人の輪が広がっていったという。小さな小屋では手狭になり、キッチンを備えた広い店を構えようとクラウドファンディングで支援を呼びかけ、2022年、現在の場所に移転した。
店内には瓶に入った世界各地のコーヒー豆がズラリと並ぶ。ケニア、エチオピア、グアテマラ、ブラジルと佐野さんえりすぐりのコーヒーを取りそろえる。店の看板メニュー「ソカロコーヒー」は、毎日飲んでも飽きない味にしようと、苦みと酸味を抑えて焙煎している。

佐野さん「お薦め」の菓子はガトーショコラ(560円)。カカオの香りを大切にし、ビターチョコ、ミルクチョコ、カカオマス、ココアパウダーのブレンドを工夫した。隠し味としてキンカン、ハッサク、甘夏を使い「芳醇(ほうじゅん)で奥行きがある味わいに仕上げている」(佐野さん)という。定番メニューのバスクチーズケーキや季節限定のアップルパイ、ナッツのキャラメリゼなど季節のフルーツを使った菓子も用意する。

今年1月には、コーヒー教室に3年通った中村晴菜さんが、八戸市南郷で農業を営む実家の庭にコーヒースタンド「サメノクチ」を開業した。中村さんによると、佐野さんのアドバイスが生かされたという。「中村さんの店が地元の皆さんと良好な関係を築き、多くの人が来るようになれば」と佐野さん。
佐野さんは取材後、コーヒーと菓子を楽しむためのペアリングのコツを教えてくれた。それは菓子とコーヒーの「色」を合わせることだという。ガトーショコラには深いりコーヒー、薄茶色のマドレーヌには浅いりコーヒーなど。
「コーヒーだけでも良いけど、お菓子を合わせると幸せが3倍になる」と佐野さん。ペアリングによって、コーヒーの楽しみは倍以上に広がっていくという。

田子町の小屋で始めた店は、移転を経て大きくなり、教室に通う人が起業するまでになった。佐野さんは「未来を変えるためには現状をあえて無視することも必要」と話し、思い立てばまず動き、小さく始めることを繰り返したという。その積み重ねが、地域に静かな広がりを生んでいる。