青森県三戸町在住の作家・高森美由紀さんが1月、伝統芸能「えんぶり」をテーマにした物語「ふたりのえびす」(フレーベル館)を出版した。
「ふたりのえびす」は、八戸地方に伝わる伝統芸能「えんぶり」をテーマに、自分のキャラクターに悩む主人公の太一とクラスの女子の憧れの的の優希の小学5年生2人が、えんぶりの祝福芸「恵比寿(えびす)舞」に初めて挑戦し、2月17日に始まる八戸えんぶりに向けて奮闘する。太一は、本来はおとなしい性格であることを隠し、周囲に対して明るく振る舞う中で自分自身を見失いかけている。所属する地域のえんぶり組「七つ組」で優希とともに恵比寿舞を担当することになり、思いがけない出来事や葛藤を経ながら、本番を迎えることになる。
高森さんは図書館で派遣職員として働く傍ら、2013(平成25)年ごろから執筆活動を続けている。名川チェリーセンターでえんぶりを見た際に恵比寿舞が心に残ったといい、えんぶりの映像や写真からイメージを膨らませた。長引くコロナ禍で八戸えんぶりは2年連続の中止になり、執筆中にえんぶりを見ることはなかったが、八戸市教育委員会から新井田仲町えんぶり組の代表親方の上野弥さんを紹介され、朝晩を問わず電話取材を重ねた。高森さんは上野さんとのやりとりを「えんぶりは普通のお祭りではないと感じた。神事だということを何度か聞いて、ぼんやりと書いちゃ駄目だと思った」と振り返る。
太一のキャラクターは、クラスでうまく立ち回るために作った表面上の性格に苦しめられている少年を取り上げた新聞記事から着想を得た。「今の子どもはこんなに大変なのか」と思ったという。
作品には、本当の自分を見抜かれることを恐れる太一の心が、優希とともに恵比寿舞の練習を重ねる中で変化していく様子を描いた。作中には八戸えんぶり当日の様子を描く場面もあり、祭り当日の表情が感じられる作品となっている。
高森さんは「これからも書き続けていきたい。郷土をテーマに書き続けてきたが、他の地域の人にも伝統や文化に興味を持ってもらえれば」と話す。