
SNSで「発泡スチロールだ」と話題になった八戸市美術館(八戸市番町)の館銘板を題材にしたアート作品に、来館者が次々と書き込みを加えている。
「八戸市美術館の『美』を盗んだ張本人らしいよ」のバッジを持つ小林前市長(写真提供=山本耕一郎さん)
「微術館」「妖術館」などの書き込みが相次いでいるのは、八戸在住のアーティスト・山本耕一郎さんが同館の展覧会「八戸アーティストファイル2025 Finding Our Beauty」に合わせて制作した参加型作品「美のない美術館」。同館前の広場の「八戸市美術館」の文字が設置されたコンクリートの壁面を再現した立体作品で、「美」の部分だけが空欄になっている。
手のひらほどのサイズのカードに来館者が自由な発想で文字を書き込み、作品に設置して館銘板を完成させる趣向。「『美』を失いました 取りあえず何かつけといてください」のメッセージで、来館者の参加を促している。
「学術館」「手術館」「武術館」などのほか、「B術館」「鼻術館」など「び」の響きを生かしたもの、「ま術館」「ぽ術館」「さ術館」などのひらがなを書き込んだものなど、約1カ月で約120の書き込みが集まった。中には「現実逃避術館」「節約術館」「徘徊(はいかい)術館」「生き残り術館」「夜あそび術館」「地球平面説術館」などユニークな書き込みも。
山本さんによると、作品の題材となったのは同館の館銘板に起きた「珍事」だという。昨年3月11日夜、同館の警備員が広場を見回った際、ステンレス製の「八戸市美術館」の館銘板から「美」の字だけがなくなっていることに気づいた。同館では、降り積もった雪の中から「美」が出てくることを期待し雪解けを待ったが、「美」が見つかることはなかった。一級建築士の顔を持つ佐藤慎也館長が「応急措置」として発泡スチロールで「美」を制作し、館銘板に貼り付けると、「(美だけが)発泡スチロールだ」「実物と比べても遜色のない緻密なカッティングが素晴らしい」などとSNSで話題になった。
「美のない美術館」には、同館の建物を模したという木製の立体構造物も設置。壁面には山本さんが2008(平成20)年から手がける「うわさバッジ」が並ぶ。「三日坊主らしい」「社交辞令が苦手らしい」「大谷選手に会ったことがあるらしい」など、さまざまな「うわさ」が書かれた手のひらほどの大きさのバッジを用意。約550枚の中から自由に持ち帰ることができる。山本さんによると、「八戸市美術館の『美』を盗んだ張本人らしいよ」と書かれたバッジを持ち帰ったのは、小林眞前八戸市長だったという。
山本さんは「『美』の部分を空欄のままにし、自由に文字を入れ替えられるようにすればいいと考えていた。アートと人の距離が近くなるきっかけになれば。誰でも参加したり、作ったりすることで、アートを面白いと思う人が増えれば」と話す。「なくなった『美』が成仏できれば」とも。
開館時間は10時~19時。展覧会「八戸アーティストファイル2025 Finding Our Beauty」の会期は4月7日まで。観覧料は500円。高校生以下無料。火曜休館。アート作品「美のない美術館」は無料エリアで展示する。