八戸地方に春を呼ぶとされる青森県を代表する冬の祭り「八戸えんぶり」が2月17日~20日、八戸市中心街をメインエリアに3年ぶりに開催された。
17日早朝、奉納が行われた長者山新羅神社(八戸市長者1)には多くのえんぶり組の姿が戻り、境内には春を呼ぶにぎやかなはやしが響いた。次々と集まるえんぶりの装束をまとった関係者らが「久しぶり」「元気にしていたか」などと声をかけ合い、八戸地方で800年続くとされる祭りの再開を祝った。「一斉摺(ず)り」では、祭りを待ちわびた市民や観光客が中心街に詰めかけ、烏帽子(えぼし)をかぶった「太夫」や、大黒や恵比寿などに扮(ふん)した子どもたちの舞に見入り、アップテンポのはやしに手拍子やかけ声を添えるなどして、思い思いの時間を過ごした。
期間中、各えんぶり組は個人宅や商店を巡って舞を披露する「門付け」を実施。東十日市えんぶり組は18日、JR陸奥湊駅周辺を巡った。昨年12月にリニューアルオープンした八戸市魚菜小売市場(湊町)では、鮮魚や珍味を販売する「いさばのかっちゃ」、市民、観光客を前に舞を披露。「恵比寿様」がタイと一緒に菓子や珍味が入った袋を釣り上げると、どっと笑いが起こった。
3年ぶりの祭りに、市民からは喜びの声が聞かれた。観光で八戸三社大祭を見たことがきっかけで札幌市から八戸市に移住したという太田博子さんは「子どもが一生懸命に踊る姿に涙が出た。念願のえんぶりが見られて感激。八戸のことがもっと好きになった」と涙をにじませた。塩町えんぶり組で太鼓を担当する木村皆子さんは「久しぶりだが、はやしが体に染みついているのを感じる。いろいろな人の顔を見て実感が湧いた。コロナ禍が収束し平和に暮らせることを祈りたい」と笑顔を見せ、中居林えんぶり組で「藤九郎」を担当する中学校教諭の横田英敏さんは「長者山でいろいろな組が集まっている様子を見て実感が高まった。3年ぶりの開催はうれしいが、担い手が減ってきたと感じるので、乗り越えて来年につなげたい」と力を込めた。
八戸藩南部家16代当主の南部光隆さんは17日・18日、3年ぶりの祭りのために「お国入り」。農民が八戸藩主にえんぶりを披露する様子を再現した「御前えんぶり」を観覧した後、更上閣(本徒士町)の「お庭えんぶり」、史跡根城の広場(根城)の「史跡根城えんぶり公演」、八戸酒造(湊町)主催の「蔵えんぶり」などを巡り、「お国」の伝統芸能を楽しんだ。「感無量。関係者は大変な中で伝統を受け継いできたと思う。これからも歴史と伝統を守り続けてほしい。私も務めを果たしていきたい」と、3年ぶりの祭りに向けて準備を進めた関係者をねぎらった。
主催する八戸地方えんぶり保存振興会によると、4日間合計の入込数は29万6000人だった。塚原隆市会長は「17日の朝は、起きた瞬間に天が味方をしてくれたと感じた。えんぶりを演じる人、関係者の顔を見て、これだけ皆の表情が明るいのは初めて。えんぶり組の継続に向けて親方は大変だったと思う。それが報われた」と満足げな表情を見せた。