八戸酒造(八戸市湊町)の元蔵人の足立洋二さんが現在、大阪とスイスで酒造りを始めようと同社の協力を得ながら準備を進めている。
足立さんは大阪府出身。2021年に足立農醸を起業し、兵庫県内の耕作放棄地を再生させ米作りに取り組み、八戸酒造のタンクを借りて酒を醸造。自身の酒造りを本格化させようと取り組んできた。今年8月、大阪府高槻市内にクラフト酒の醸造所を開設し、2028年にスイスで日本酒を醸造することを目指している。
今年2月は八戸に1カ月滞在。兵庫県内で育てた米500キロを八戸酒造に持ち込み、同社のタンクを借りて酒を醸造した。完成した酒「KOYOI」はコシヒカリを使用。ワインの酸味を意識した。「ブドウを思わせるほのかな香り」が特徴で、「ワイングラスで飲むのがお勧め」だという。酒米を用いず食用米で酒造りをするのは「酒米が手に入らないスイスでも、おいしい酒を造るため」だという。足立さんは「海外でも飲んでもらえるよう、酒質を意識している。酒の文化を海外で広げるために、スイスで酒を造りたい」と意気込む。
足立さんはアメリカで日本酒を知った。19歳だった2009(平成21)年、水泳選手を目指してテキサス州の大学に進学するが、言葉の壁を乗り越えられず別の大学に転学。アルバイトで働いていた日本料理店「DAITO」で日本酒を提供したことがきっかけで、日本酒の魅力に気づいたという。
2015(平成27)年、25歳で帰国。八戸酒造が大学生のインターンを受け入れていることを聞きつけ、同社の酒造りを1週間体験。駒井伸介常務の誘いを受け、体験の2カ月後には蔵人として働き始め、江戸時代から続く南部流の酒造りを学んだ。
入社1年目から酒造りを任され、「このまま八戸に骨をうずめよう」と決意。同社の「ミクシードシリーズ」の開発やニューヨークへの出張を経験し、同社の酒を広めるための活動に奔走した。休暇で訪れたヨーロッパのワイナリーが転機となった。フランス、スイス、ドイツのワイナリーを1週間で7カ所巡るなか、現地でワイン造りをする人に「あんなにまずいものをなぜ造るのか」と問いかけられ、ヨーロッパで日本酒を広めることに可能性を感じたという。
その後、地元・大阪で酒造りを展開しようと同社を退職。独立を前提に兵庫県内の酒造メーカーに勤めながら起業の準備を進め、2021年に足立農醸を設立。再生した水田で育てた米を八戸酒造に持ち込み、同社の協力で醸造した酒「KOYOI」が「ルクセンブルク酒チャレンジ2022」で銅賞を受賞した。
今年は、2月に八戸酒造で2回目の酒造りを行った後、3月には福岡県内の酒蔵の協力でキウイを使ったクラフト酒の醸造に挑戦する。8月には大阪府高槻市の富田団地にクラフト酒の醸造所を開設し、自身が育てた米と大阪産の果物などを使い、酒税法で定められた「その他の醸造酒」の醸造に着手する。
海外展開も視野に入れ、現在は中国、フィリピン、ロンドンに輸出。今後はシンガポールへの輸出も予定。スイスでの酒造り開始に向けて準備を進める。
南部流の酒造りが息づく八戸では「シンプルでいいものを作ることの大切さを学んだ」と言い、今後に向けては、「米作りから酒ができるまでを伝えたい。しっかり手をかけた、ストーリーや付加価値を感じる酒を味わってほしい」と話す。