写真家・佐藤時啓さんの個展「八戸マジックランタン」が現在、八戸市美術館(八戸市番町)で開かれている。佐藤さんが2016(平成28)年から6年間、八戸に通い、延べ216日かけて撮影した写真を展示する。
会場は「Magic Lantern」「An Hour Exposure」「Camera Lucida」で構成。長時間露光やプロジェクションなど、カメラの仕組みや撮影技術を用いて撮影した作品125点が並ぶ。
光とレンズを利用して写真や絵を投影する「マジックランタン」から着想を得た「Magic Lantern」の作品群は、プロジェクターとカメラを組み合わせて制作。コロナ禍前に撮影した「八戸えんぶり」「八戸三社大祭」「南部馬」などの写真を種差海岸の岩場や水面、工場の壁面等に投影し、長時間露光で撮影。八戸の代表的な文化や歴史が暗闇に浮かび上がる。
「1時間露光」を意味する「An Hour Exposure」は、八戸三社大祭の山車が運行される様子や種差海岸の風景などを、長時間露光の仕組みを活用して撮影。水面に浮かぶ船や八戸三社大祭の山車を被写体ブレや光の線で描き、時間の流れを表現した。八戸三社大祭について、佐藤さんは「八戸の人の短い夏へのエネルギーが発揮されていると思った。そのエネルギーが時間となって一枚に写っている」と振り返る。
桜の木を被写体とした「Camera Lucida」は、19世紀に発明された描画補助器具の構造を佐藤さんが自作し、木に咲く花と散った花を重ね合わせて撮影した。
会場には、佐藤さんがカメラの構造と自転車を組み合わせて制作した「リヤカーメラ」を展示。荷台に設置された構造物の中に入ると周囲の映像が内部に映し出される仕組みで、カメラの構造を楽しみながら学ぶことができる。佐藤さんは「写真は1つの穴を光が通ることで像が写る。高性能なデジタルカメラでも同じ。それが面白い」と話す。
撮影期間中は八戸市内丸の一般駐車場にキャンピングトレーラー「八戸ハウス」を設置し、近くの銭湯やスーパーに通うなど、市民生活を体験しながら活動を続けた。撮りためた作品の展示方法を考え始めた2020年にコロナ禍に陥り、写真を海や岩に投影した新しい風景として自分の作品にすることを思いついた。
会期中はカメラの仕組みを学ぶ体験イベントを開き、八戸市が取り組む「写真のまち八戸」の活性化につなげる。佐藤さんは「アートは人間の心の表現。コロナで大変な時代だが、その大変さを伝えるのもアート。八戸で自分自身が体験したことを作品で伝えたい。カメラや光学装置の面白さ、八戸のいろいろな場所の楽しみを感じてほしい」と来場を呼びかける。
開館時間は10時~19時(12月28日~1月4日は10時~17時)。火曜休館(12月31日・1月1日は休館)。入館料は、一般=800円、大学・専門学生=400円。17時以降半額。1月9日まで。